SpatialChat でリモート環境のコミュニケーションを雑にやっている

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今所属しているチームでは、リモート環境でコミュニケーションを雑にやるための手段を色々試している。
その中で SpatialChat の使い勝手が良さそうだな、と思って使い始めたので、勝手に紹介する。

※この記事は W3C Accessibility of Remote Meetings の内容をカバーしていません。

tl;dr

  • リモート時代の同期コミュニケーション、減ってるしなんか違う
  • 職場のコミュニケーション、もっと雑にやれたはず
  • SpatialChat はクローズドでなく、雑に会話に加われるスペース

リモート・コミュニケーションの課題

リモート・コミュニケーションのあり方について、マイクロソフトの示唆に富んだ調査がある。
その調査結果は "The effects of remote work on collaboration among information workers" という記事にある。
内容をサラッと説明すると、リモートワークによって、コミュニケーションの多くが E メール、メッセンジャーなどの非同期な手段に移り変わり、他部署との連携や横展開が減ったというもの。

同期コミュニケーションが減ると言うより、リモート時代に同期コミュニケーションを増やすための施作を、誰もよくわかってないのかもしれない。
最近、リモートやハイブリッドワークを実施する十数社の企業とカジュアル面談をしてて、リモート・コミュニケーションの事情をヒアリングしてた。
確かに、どの企業も「Slack などを使ったテキストベースのコミュニケーション」については徹底していたけど、一方で「同期コミュニケーションが増えた」という話は全く聞かない。
テキストベースのコミュニケーションも、オフライン時代のコミュニケーションの単なる代替手段だったりする。

同期・非同期の良さはおいといて、非同期コミュニケーションが増える一方、同期コミュニケーションが増えていないというのは間違ってなさそう。

もっと雑にやる

もう1つ気になるのは、同期コミュニケーションの作り方が、モード化前提なこと。
例えば、オフィスで発生する会話を再現するために、雑談「部屋」を立てたり、数人をランダムに集めて雑談「タイム」を設けるなど。
それらは、コミュニケーションの空間づくりを無意識に強制する。コミュニケーションに対する意識のすれ違い、会話したくない時に会話させられるなど、別の課題が生じる恐れがある。

オフラインとオンラインでは勝手が違うのに、オフィス時代に発生していたコミュニケーションを、無理に再現しようとしているフシがある。
「バーチャルオフィス」のような試みもあるけど、それを支援するようなサービスがないというか、現代社会に追いついてない。テレビ電話やグループチャットの延長だったり、メタなんちゃらに傾倒しすぎて、コミュニケーション自体が重かったりする。 ツールの使いようだとは言っても、メンタルモデルがオフィスにいた時のそれじゃない。

色々難しく考えてしまったけど、職場のコミュニケーションはそんなに複雑なものじゃなくて、もっと雑にやれるもののはず。
バーチャルオフィスのような場所でなくても、最悪顔が合わせられなくても、会話自体がシームレスであればいい。それをオンラインでうまく実施できていないのが、リモートの同期コミュニケーションに感じる課題。

SpatialChat を使った

そんな中で、様々なツールを試してた。
現在お試しで使用しているのは、本題の SpatialChat というサービス。
イベントなどに特化した、オンラインのコミュニケーション用スペースを提供する。
オフィスやイベント会場などを模したルーム上に、アバターが設置される。
自分のアバターは操作可能で、他アバターとの距離によって音声の大きさが決まることで、擬似的な距離感を実現している。

ルーム上には、テキストや画像、GIF や YouTube などを置ける。
他にも画面共有を置いたり、Miro や Google ドキュメントなどを貼ってルームにいる人と編集できる(画像はトークン保持の x-amz ヘッダーがなくてずっと残り続けるのが気になってる…)。
また、スライド用のステージが別途用意できて、発表会みたいなこともできる。

SpatialChat の特徴は、会話がクローズドでないこと。
他ツールのように「部屋」ができないし、会話に「参加者」という概念も存在しない。アバター同士の距離感で会話が表現されるシステムなので、全ての集まりが可視化され、自然に会話へと加われる。顔を出さずにラジオ気分で、ひょっこり他のチームの MTG やモブプロ、普段会話しない人の雑談へ入り込んでもいい。
「いつでも雑に会話が始められる空間」として、誰かがいるだけで価値がある。

実際に、SpatialChat の空間にいて、コミュニケーションの障壁がかなり下がった。その都度会話したいと思った時に、会話したい人のところへ行けばいいから。
別のチームとの雑な交流も増えてきて、最近ではチームそれぞれの悩みを共有できたりした。

SpatialChat を使う前は Meet や Zoom, Slack の Huddle などを使っていた。
これらはコミュニケーションに対してクローズドで、いたずらに会話への敷居を高くしててしまう課題があった。
SpatialChat と似たツールとして、Gather というのも使ってみたけど、こちらは仮想空間の視覚的な楽しさにこだわり気味で、フットワークがとても重かった。

課題

個人的な課題は、「気配」がないこと。
現実世界だと、誰かに声をかけられたり、肩をトントンされたり、フワッとしたにおいだったり、エイトセンシズに目覚めたりするなど、何かしらの「気配」に五感で気づけることがあった。
SpatialChat ではその「気配」がないので、作業中に突然話しかけられるとびっくらこいてしまう。ステータス的なバッジもないので、いるのかいないのか、集中してるのかわからない問題もある(仕方なく名前欄にステータスを書いたり、距離を開けたりしてる)。

運用していて浮上したのは、ワーキングアグリーメント的な課題。
結局のところ会話スペースが可視化されるだけなので、会話に壁を作れてしまうことは変わらない。そもそも SpatialChat の空間では、無理に会話へ加わる必要もない。
心理的安全性はもちろん「会話のしやすさ・入りやすさ・入らなくてもよささ」を醸成したり、「雑なコミュニケーション」への意識を、各個人がもっておく必要がある。

終わり

もちろん SpatialChat は万能じゃない。オフィスの模倣でも、チャット会場でもなく、雑にコミュニケーションが取れる HTML があるだけ。

今回は、「いつでも雑に会話が始められる空間」を理想としたけれど、他社では機能しないかもしれない。
SpatialChat のやり方が疲れたら、別の手段を探す予定。
正解にこだわらず、状況に応じた最適なリモート・コミュニケーションのあり方をチームで模索したい。