スタートアップ採用活動 現場で考えていること

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この記事はジンジニア アドベントカレンダー Advent Calendar 2024 14 日目の記事です。
人事というか、エンジニア中途採用のポエムです。

はじめに

スタートアップで、開発現場のメンバーが採用活動に関わることは珍しくない。
今回はスタートアップの現場目線で、メンバーエンジニアの中途採用に関わる時の自分の考えを書いておく。
シリーズ B〜C ぐらいの組織拡大中の頃の話なので、それより前だとあまり当てはまらないけど…。

このポエムの内容は、現場の採用活動における責務が「現実をしっかり伝えること」という話。
それを「いい家の言語化」に絡めて書いている。

現場でのゴール

現場での採用のゴールは、現場でしか伝えきれない雰囲気や仕事を、候補者へしっかり伝えること。
しかし、実際は上から降りてくる目標にコミットする動き方が求められる。
つまり採用がゴールの世界線になるので、とりあえず良さげな人にアプローチをかけたり、都合の良いアトラクトをしてしまう。
それは、候補者のロイヤルティをあまり考慮できてないので、入社後に致命的なギャップを生じさせる恐れもある。
そうならないために、「いい家」を知っておくことが良いと思っている。

「いい家」を知る

「いい家」とは何かを知るヒントとして、ハウスメーカーの一条工務店を挙げてみる。
一条工務店は非上場で広報も控えめな、謎の多い企業。しかし多数の受注実績があり、(公開資料の範囲では)比較的安定した経営基盤を持っている。
同社の強みとして「高断熱、高気密」な家の商品力が挙げられるが、潜在的な強みは以下の「営業の型」だと思っている。

  1. 住宅展示場の出店に力を入れ「ライフステージが変化し出費も嵩む中、家探しでふらっと来た」層にターゲットを絞る
  2. 性能にこだわるため、注文住宅の中では建築上の制約が多く「顧客の思い描く理想の家」をアトラクトから外す
  3. オプションを商品グレードの形でプリセット化し「あらゆるものが標準設備」によるお得感を醸成、かつ予算と乖離することのギャップも防ぐ

要は「制約を受け入れられるならいい家です」的な営業の型ができている。一連の体験を通して客に「いい家」とは何かを伝え、それを好む層の購買意欲を醸成し、デメリットも享受させ、契約後のギャップも防ぐ。

もちろん、一条工務店の家を「いい家」と思わない人も世の中にたくさんいて、他に質の高い家はたくさんあるはず。ただ、大事なのは「いい家」が言語化され、魅力を感じる人に絞って体験を届けられていること。

これは本記事と関係ないけど一条工務店は UGC が豊富で、特に Instagram のコンテンツが多い。
興味を抱いて SNS を眺めたユーザーに「口コミで広がっているいい家」感をバッチリ演出するのだが、これはこれで採用活動のヒントになると思う…。

会社の「いい家」を知る

採用における「いい家」の言語化とは、自分の会社が何者かを知ること。採用側としては、主に「会社の文化」が何かを知る試みになる。しかし「会社の文化」を知ることはかなり難しい。それは意思決定の積み重ねからできた、「現実」のキメラみたいなやつだから。

社員にワークショップやインタビューをお願いして、皆が考える「会社の文化」を言語化することはできる。ただ、それは曖昧な文化しか出てこない。
以下のような、どこかで聞いたことのあるものになってしまう。

  • 上下関係が薄く、風通しが良い
  • 顧客目線で徹底的に議論をする文化がある
  • 優秀な人が集まり、背中を預けて戦える
  • 挑戦を恐れず、変化を楽しめる
  • 働きやすい

なぜか?は知らんけど、こういった取り組みでポジティビティ・バイアスを排除する視点が欠けてしまうからだと思う。広報向けに各々のトークは美化され、その裏に隠された課題や不満はオミットされるから、曖昧な文化になってしまう。
最近だと、リモートワークも似たような文化になりがち。「対面コミュニケーションにそこまで執着しない」層と「対面コミュニケーションを大事にする」層を共存させていることは歪だけど、「コロナ禍」と「働き方の多様化」という魔法の言葉でなんとか続いている。

会社の文化を言語化するというのは、社員が会社の「現実」を知ることなのかもしれない。
文化が曖昧でなくなり現実となると、音楽性の違いによって去る者が現れる。リモートワークで言えば、出社回帰もその一つだと思う。
それは必ずしも悪いことではなく、「いい家」と思う人に魅力を感じてもらうチャンスになる。
Terra Charge(旧テラモーターズ)社のように確固たる意志で出社を表明して、「いい家」と感じてもらえる層を絞るようなことも、勇気の見せ方だと思う。
リモートワークは限界なのか。完全出社、急成長企業に見る現実 | Business Insider Japan

ただ、言語化をドラスティックにやれる企業はそうない。ただでさえ人手不足なのに、反発があると困るだろうし…。
ここでは少しスコープを狭めて、開発現場の現実を知ることが妥当な選択となる。

開発現場の「いい家」を知る

開発現場の「いい家」つまり現実を知ることを日々やっていく。
チームや VPoE, EM あたりから、会議体とか 1on1 を通して、以下のようなことを広くキャッチアップしておく。

  • チームの人間関係
  • チームのプロダクト開発や開発プロセスに対するモチベーション
  • 個々のリソース状況
  • 広報の事業内容と実態のギャップ
  • 開発上のパワーバランス(対 Biz, 対上下関係)
  • 評価制度の妥当性、ロールモデルの有無
  • その他現状の不満、辞めるメンバーがいたら退職理由

それらをどこかに書き出しておく。
書く上でのフレームワークはないけど、できるだけ事実を書くようにする。例えば「職能を横断した仕事に挑戦できる」という文化が組織にあるとしたら、「役割分担が決まってない」とか「評価制度が整ってなくて、単一の職能に求められる期待値の範囲がやたら広い」のような背景があり、その制約を受け入れられないと魅力にならないかもしれない。
また、最近は書き出した項目をポジティブとネガティブに振り分けている。事業拡大中のフェーズは両利きの経営を強いられていて、新しい何かを立ち上げるための課題(ポジティブ)と、オペレーションにおける組織上の課題(ネガティブ)があるはずなので。

現実を書き出しておくほど、候補者の現場に対する解像度を高くできる。完璧であることは難しいが、少なくとも曖昧な文化よりは課題感を共有しやすい。現場側の解像度も高くなるので、誰かにラブレターを送る時の道標にもなる。
課題のポジティブネガティブを把握しておくことで、魅力になる課題、助けてもらいたい課題の切り分けもできる(できそう、実践してはいないので…)。

注意点としては「いい家」自体はつくらない。
あくまで現実を知る試みなので、現場を良くするためにモダンな言語を採用する、とかはしない。

終わり

このポエムはあくまで綺麗事なので、実際の採用活動に全てを取り入れることは難しい。
そもそも数値に責任を持っているのは採用担当で、責任のない外野がギャーギャー口を出すところではない。
とは言え、いくら飯を食ったりフォローアップしても現場レベルでミスマッチがあると致命的なので、それを減らすための努力をするのは現場の仕事だとも言える。
採用活動の実績を積み重ね、採用担当とうまく付き合いながら、こういうことを引き続き疑っていきたい。

最後に、エンジニア採用市場が冷え込んでいる中、組織拡大という贅沢なミッションに携われている環境に感謝…。